あごが出ている患者さまの入れ歯 | 渋谷歯科 | 平日夜7時半・土日も診療の渋谷の歯医者

あごが出ている患者さまの入れ歯

「先生!私、顎が出ているのですが入れ歯を作れますか?」が患者さまの第一声でした。

どこの歯科医院に行っても顎が出ていることで入れ歯が上手く作れないと言われたそうです。
保険適用の入れ歯だと作れないから保険適用外の自費の入れ歯を作ったけれど痛くて全然噛めない!という話を聞いて、私は、見てみないとわからないですが、出来るだけ頑張ります。と伝えました。

骨格的に顎が出ている患者さまは、いらっしゃいます。
歯があった時は、それでも支えがあるので噛めていたと思いますが、支えになる歯がなくなると、入れ歯があちこち動いてしまい安定するのが非常に難しくなります。

患者さま情報

年齢・性別 80代・女性
主訴 アゴが出ていて入れ歯が噛めない。
現病歴 保険の入れ歯を作った際に、下アゴが出ているから難しいと言われた。入れ歯を作っても痛くて噛めない。
その後保険外の自費の入れ歯を作ってもらったが噛めない。

レントゲン写真

このレントゲン写真からわかることは、向かって左の骨は、右に比べて半分くらいの厚みしかないことです。
このように極度に顎の骨が吸収してしまった場合は、顎が出っぱっている以前に、入れ歯の製作が難しくなります。

お口の中の写真

お口の中の写真を見るとやはり向かって左下が凹んでいます。それに対して、上あごにご自分の歯が4本残っています。
向かって左下が凹んでしまった理由として考えられることのひとつは、しっかりと残っている上の歯がハンマーの様に下の入れ歯を叩くので、どんどん凹んでしまった可能性があります。非常に難しい症例です。
また上の歯が矢印のように噛んでくると下の歯は内側ではなく外側に並んで噛ませないといけませんので、交叉咬合(※)といわれる噛み合わせになります。これは入れ歯の噛み合わせとしては、バランスを保てないので難しくなります。

※交叉咬合とは:上の歯列全体が下の歯列よりもやや外側に出ていることが正常なかみ合わせです。
歯を噛み合わせた時に上下の歯列がどこかで上の歯列よりも下の歯列が外側に出ているかみ合わせのことをいいます。

入れ歯装着時のお口の写真

入れ歯を装着した状態を診てみると上あごと下あごの入れ歯には隙間が見えます。つまりあまり噛んでないということが分かります。向かって右側は、正常な噛み合わせですが、向かって左側は、若干、噛み合わせがズレています。
上あごと下あごの正中が合っていません(写真:赤線と青線)。ということは噛み合わせも合っていないということになります。患者さまの顎がズレているのか、入れ歯の排列した歯がズレているのか、またはその両方なのかを考えながら作る必要があります。

入れ歯の写真

入れ歯をお口の中から外に出して確認しても向かって左側にズレていて、入れ歯の歯を並べる位置がズレていることが確認できます。
向かって右下の欠けている部分は削った後があり、以前に削ったことが考えられます。

お顔の写真:正面

お顔の写真を見てみましょう。正面から見るとそんなに顎が曲がっているようには見えません。
顎は、お鼻のラインに対して少し向かって左寄りに見えます。
下顎は、向かって左側に若干ズレているように見えます。

お顔の写真:横から

横から見てみると上あごより下あごがかなり出ています。この状態を反対咬合といいます。反対咬合を入れ歯で安定させることは、至難の技です。
レントゲン、口腔内、顔貌を見てみると非常に難しい入れ歯の患者さまだということが分かりました。

お顔の動き

写真だけでは分からないことも動きを見ることで良く分かります。
お口を開けるときにアゴがどのように開きどのように閉じるのか、真っ直ぐに開いて真っ直ぐに閉じるのかなどです。開閉口路は、問題ないのではないかと判断します。
歯をスライドさせるように前後左右に動かした際は、向かって左側への動きは、スムーズですが、向かって右側への動きは、少しぎこちなさがあります。

あごが曲がっている患者さまを見た感想

あごが曲がっていたりあごが出ていたりすると治療は非常に難くなります。
このような患者さまを噛めるようにするためには、個人トレーを作製してしっかりと型を取ります。
この患者さまの場合は、非常に難しい噛み合わせをしていますので、保険診療外で使用する材料のシリコンを使用して、型をとります。

入れ歯の噛み合わせ

上下の入れ歯の噛み合わせを採得する咬合床とよばれる道具は、多くの場合、歯科技工士さんに依頼しますが、私(理事長、田中)は自分で作製します。
患者さまのあごの状態や顔を思い浮かべながら、実際に見たからこそ、より良いものができると考え納得のいく咬合床を作製しています。

入れ歯の歯を並べました。

噛み合わせをとったら、咬合器という装置に模型を装着します。患者さまのお口を患者さまの次に1番知っているため、私が自分で行います。

写真で見てみると噛む面がだいぶ曲がっています。そして、向かって左の奥歯は交叉咬合に歯を排列しました。
上の天然の歯が残っている箇所がそのまま下にスッと噛んでくるとちょうど下の歯の真ん中に来てしまい、正常には噛まないわけです。下の歯をどこに並べれば上手く噛めるかということを考えながら歯を並べます。
試行錯誤して並べた状態が写真になります。並べてみて本当にこの並べ方で問題ないのか、確認が必要です。

入れ歯の完成

出来上がった入れ歯です。向かって左側は、交叉咬合排列で上と下の入れ歯を噛み合わせました。向かって右側は、通常の排列で上下を噛ませました。

あごの位置が元々ズレていますので、色々な工夫が必要になります。アゴがズレている患者さまは、まともに入れ歯の歯を並べて噛ませても初めから噛めることは、なかなか難しいことがありますが、慣れてくると段々に噛めることがあります。
また、アゴの関節に問題があると噛む位置が完成後も変わってくる可能性があります。その辺を考慮しながら、入れ歯を調整する必要があります。

完成した入れ歯を装着したお口の中の写真

入れ歯が完成してお口の中にセットした状態です。向かって右側は正常な噛み合わせで、向かって左側は交叉咬合といわれる特殊な噛み合わせになります。

入れ歯装着後の動画

完成後初日の動画です。
カチカチと噛んでいただくとスピードも噛む位置も安定していると思います。ギリギリと歯をスライドさせるとまだぎこちない感じがするので、もう少し調整が必要かと思います。

患者さまの来院回数・入れ歯費用

来院回数 治療内容 費用
1日目 検査・簡単な型どり、資料取り 約1,000円
2日目 精密な型どり 約500円
3日目 噛み合わせ確認 約1,000円
4日目 入れ歯の歯並び作製 約700円
5日目 入れ歯の歯並び確認 約500円
6日目 入れ歯の完成・調整 約6,100円
合計来院回数 6回
合計費用 約9,800円

※費用は全て保険適用3割負担

※調整に今後も数回通院の可能性有り

あごが出ている患者さまの入れ歯まとめ

下あごが出ている患者さまは、歯をどのように並べれば良いか、迷います。
入れ歯を安定させることが非常に難しいです。入れ歯を安定させるためにシリコンを用いて精密な型をとったり、歯を並べる位置を工夫したりする必要があります。今後の入れ歯調整でどのように変わってくるかを観察していきます。

84歳で足が悪い中、渋谷まで通っていただきありがとうございました。

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